口笛吹くまねをしたら、先生にボロクソに叱られた話。

徹子の部屋、本日のゲストは綾野剛。

15年前に仮面ライダー555(ファイズ)の怪人役で、
俳優デビューをされたとのこと。
しずしずと落ち着いて喋っているものの、笑うときには
しっかり笑う、笑いを取るということができている。
そんな姿は、さすが俳優だなあと感心するのだ。

ファイズといえば、ぼくは当時小学4年生。
良くも悪くもやんちゃ盛りの子どもだった。
喧嘩は勝って当たり前、給食はお代わりして当たり前。
太っているがゆえの自虐ネタで笑いを取ることもできる、
クラスに1名はいそうな、明るいデブ。それがぼくだ。

4年2組では、一時期、はやっていたことがある。
『口笛ムーブメント』だ。
音楽で習った曲、流行りの曲、珍妙なメロディーetc
とにかく、吹きまくる。
男は女に見せつけ、さらに男同士で賞賛しあいコツを教えあった。
会話の機会が増えると、笑顔になる機会も増える。
さしづめ、口笛による学級改革とも捉えられた。

思春期を迎え、男と女の関係がややこしくなる年代。
であるにも関わらず、口笛をとおして4年2組の男女の
仲はより一層深まったと言える。

「ピュ〜イ〜♪」
ある日の授業中、誰もが耳を疑った。
何をしたら先生が怒るか、どんなことをすれば笑いが
取れるかということを、10才にもなれば
なんとなく理解するものである。
『授業中に意味もなく口笛を吹く』行為は、
言わずもがな、先生が怒ることがらに分類される。

“やりたくてもやれない”、“誰かやってくれねえかな”
誰かが抱いていたであろう、気持ち。
そんな気持ちの代弁者が、4年2組に静寂を生んだ。
犯されてしまったのだ、タブーが。
口笛が、教室に鳴り響いたのである。

こういう時の犯人は、イキりたおしてるやつとか
普段からチョケてるやつと大体の相場は決まっている。
そんな中、ぼくもクラスメイトから疑いの目を向けられていた。
クラスに1名はいそうな、明るいデブ。
疑われるには十分のスペックである。
しかし、ぼくにはアリバイがあった、
というか身の潔白を証明することができた。
このデブ、口笛が吹けないのだ。

「お前がやったんだろ」「チャメさん(あだな)じゃね?」
名指しをされるも、違う。ぼくじゃない。
「やってないよ。だって、おれ口笛吹けないもん」
今までの見よう見まねで、実際に唇をとがらせ
口笛を吹くフォルムを作る。
聞こえるのは当然、スー、スーと空気が口から
こぼれるだけのか細い音。
百聞は一見にしかず、これで無罪放免だと安心した。

「こら!!!★*;:@x〜!!!!」

刹那、静かに犯人を探していた先生が、すごい剣幕を見せた。
子どもたちの姿勢がさっと伸び、先生へ視線を向ける。
状況を飲み込めないまま、ぼくも先生へ顔を向けた。
「ナベック!黙ってないで謝りなさい!!!」
依然として、状況が飲み込めなかった。

なんで授業の邪魔をするの。
授業中に口笛吹くなんてふざけすぎ。
やっていいことと悪いことがあるでしょう。
友達にも迷惑をかけたんだよ。
謝りなさい。
一方的にまくし立てられ、事態に気づく。
ぼくが犯人になっている。
身の潔白を証明するための口笛を吹くまねが、あだとなった。
音が出た云々ではない。
まねしたフォルムそのものが証拠となり、先生の目に止まったのだ。

違う、ぼくじゃないです。やっていません。
普段の声とは真逆に位置する、弱々しい声。
聴衆には届かない。
“やっぱりチャメさんか”ムードが教室を支配する。
小学4年生、他人からの圧倒的な哀れみや怒りに
まだ慣れていない子どもには、もはや限界だった。
ぼくは、クラスに1名はいそうな明るいデブは、
泣きながら謝った。
ごめんなさい。と。
重く、重く、閉じた口を開けて。

過ぎ去った平穏。
束の間のムーヴメント。
なぜ口笛なんてものがはやっていたのか
と、ひと月後には皆が笑いあっていた。
ふた月後には話題にも上がらなくなり、
4年2組の面々は進級をもって散り散りになる。
先生とクラスメイトの顔は、晴れやかだった。

半ばヒステリックをおこす先生に、
なじられ泣かされたデブがいたなあと。

綾野剛を見て、思い出した話。

7年前

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