普段から0時になる前には眠気に襲われるぼく。
サッカーロシアW杯。ベルギー対イングランド。
実家で飲んだ生ビールのおかげもあり、気分よく視聴していた。
前半早々に、華麗かつ痛烈なシュートがイングランドゴールに吸い込まれる。
ようルカクをフリーにしてるなあと解説の人はもっともらしいことを言った。
それから、程なくして意識が落ちた。
前半終了間際の0時前。日々の習慣には太刀打ちできなかった。

起きた時、やっちまったと思いながらも
「まあ、ニュースで見れば大丈夫だろ」と高をくくっていた。
だが、チャンネルを変えるもどこも取り上げていない。
サッカーロシアW杯。すでに日本は敗退しており、
サッカーバブルはとっくに弾けたんだと悟った。
思い返せばそうだ。
NEWSのBLUEを聴く回数は格段に減り、SuchmosのVOLT-AGEは忘れ去られてしまった。
シューイチのヒデちゃんがつまらんVTRを見て、ワイプ越しに笑っている。
刹那に感じるリアル。
人々の興味関心の対象は、人知れず伝播し、人知れず廃れていくのだと痛感する。

シューイチ夏特集では、西村まどかちゃんが水着姿を披露している。
海に行こうよ、ビール飲もうよ、暑さを楽しもうよ。
「夏が始まるよ」
西村まどかちゃんの、シューイチの言いたいことは、すぐに伝わってきた。
夏の暑さを楽しむべく、朝活をすることを決意する。

いつもはだらしなく下ろしている前髪を、7：3に綺麗にスタイリング。
朝ならば車通りも人通りも少ないからと、愛用の自転車でサイクリング。
完璧な1日の幕開け。我ながら、そのことを実感していた。

走り始め、いつもと違っていることに気づく。
尋常ではないほどの汗をかく自分がいた。
張り切って数冊の新書をカバンに詰め込んだから？
2Lの水を携帯してしまったから？
自転車に乗っているのに風をあつめられないから？
原因を考えても、もうどうしようもない。
セットした髪は汗と風圧で額に張り付き、すだれ状になった。
暑さを楽しむ余裕なんて、かけらも生まれなかった。

『神田珈琲園』。おいしいコーヒーを低価格で提供する
神田を代表する同店に行きたかった。
人気のない朝の珈琲屋で暇をつぶしていたかったのだ。
なのに、探しても見渡しても見つからない珈琲の園。
聞く人はいないし知る由もない。その間も汗は止まらない。
もういいよそこと諦めていたころに目に入ったのが、
『ルノアール神田南口駅前店』だった。

涼しい店内と水だしコーヒーで、かろうじて夏を感じる。
思い通りにはいかなくても、一日は始まったばかり。
はっぴいえんどとまでは言えずとも、今から十分に巻き返しを
図れると確信できるのも、朝活の時間ならではだろう。

脳が元気に動いているうちに本を読んで、知識を蓄えよう。
そうして手に取った新書は、なぜかごわごわしている。
新書をはじめ、カバンの中の紙類は2Lペットに付着した
結露によって水にさらされていた。
西村まどかちゃんのセリフが、頭の中を反芻する。

夏が、始まった。